【教育コラム】5,教育デジタル化 光と影

読売新聞(三重版・愛知版)掲載「伊藤奈緒の受験ABC」2021年9月2日

 新型コロナウイルス感染症の爆発的拡大が続くなか、いよいよ2学期が始まりました。デジタルツールを用いたオンライン学習・授業やリモート指導に取り組む動きが改めて起こっています。ここで社会環境のデジタル化が教育にもたらす影響について考えてみましょう。

 デジタル化にはいくつも利点があります。たとえば、人を1か所に集めなくても授業や指導が可能になったことです。「密」の回避を求められる現代にはピッタリです。また、高品質の教育サービスを、地域を問わず受益できるようになり、地域格差が大きく是正されたのも重要な点です。オンライン授業など多様な教材を用い、個別最適化した学びがしやすくなったのもデジタル化の恩恵です。

 しかし、大学受験指導に21年以上、IT教育に16年以上費やしてきた私の経験から言いますと、デジタル環境に完全に適応し自力で成果を出せるような子供は少数で、学年の上位5%程度、主体的に自己コントロールができる子供に限られるというのが正直な実感です。それどころか多くの子供は、一人で集中して勉強する力が明らかに落ちています。スマホ・SNS越しの人間関係・動画・ゲームなど、集中力を著しくそがれ不要なストレスをため込みやすい環境に生きています。

 またリアルな生活では孤立しがちとなり、人と話し体を動かす機会が減っているのも悪影響を与えています。「やっぱり家では勉強できないから」とあえて校舎に通い、仲間たちに交じりながら勉強する生徒の姿を見ると、生きた人と対面し時間・空間を共有することがいかに大切かを感じさせられます。

 教育は人の一生に関わる重大事です。そして受験に「待った」はありません。非対面型のリモート指導も大切ですが、それに偏ることで子供の学びを停滞させないよう、私たち大人は細心の注意を払う必要がありそうです。