【教育コラム】8,本質を見据えた教育を

読売新聞(三重版・愛知版)掲載「伊藤奈緒の受験ABC」2022年1月6日

 私は大学受験で現役の高校生を指導していることもあり、高校スポーツにとても関心があります。特にバレーボールが大好きで、中でも応援しているのは名門・下北沢成徳高校(東京)。これまで世界の舞台で活躍する名選手をたくさん輩出しており、人気のある高校ですが、特に私がシンパシーを感じるのは、選手に対する指導理念です。

 バレーボールは、一般論でいえば、試合で勝つためには速く低いトス回しによる攻撃の方が有利です。なぜならば、スパイクを打つまでの滞空時間が短くなり、相手チームにコースが読まれづらく、ブロックやレシーブがされにくくなるからです。しかし、下北沢成徳の代名詞となっているオープントスバレー攻撃は、その正反対のプレースタイルなのです。では、なぜそうしたスタイルにこだわるのでしょうか。

 それは、目先の勝負に勝つことよりも、選手を育てることに重きを置いているからです。将来、世界を相手に活躍するためには、相手のブロックを自らの力で打ち破れるだけのハイレベルな身体能力が必要となります。そういう理念に基づき、フィジカルな強さを追求するような指導をあえてやっているのです。選手たちもそういう指導理念に期待して、将来世界で活躍したいと願うハイレベルな選手たちが日本中から集まってくる。だから結局、試合でも強いんですね。

 知能を育む教育も同じです。子供たちや保護者が教育に本当に求めているものは、目先のテストでいい点をとるだけの小手先のテクニックではなく、社会で通用する優れた知能なのだと思います。教育に携わる者は、そうした期待に応えられる存在であるべきだと私は思っています。

将来世界で活躍するための礎をつくる。2022年を迎え、教育、スポーツ問わず、皆がこういう本質に立ち返ることが大切だと思います。